シェアリング倉庫サービス「WareX(ウェアエックス)」を運営するGaussy㈱は3月22日、物流システム・サプライチェーンマネジメント・バリューチェーン等に関する研究を行う東京大学大学院工学系研究科システム創成学専攻 川崎研究室と共同で、「付加価値最大型物流ネットワークの設計」に関する共同研究を行ったと発表した。
本研究は、シェアリング倉庫サービスの効果に関する初の研究成果としている。
●本研究の目的
海外のみならず、日本でもWareXをはじめシェアリング倉庫サービスの利用が拡大し、複数倉庫の活用が現実的な選択肢となっている。
従来の賃貸を含む自社構築型の倉庫利用では、物流費用を最小化するために倉庫拠点を集約することが主流だった。これに対して、シェアリング倉庫サービスには、費用を抑えながら利用する倉庫拠点数を増やせるというメリットがある。その利点を活用すると、分散型のサプライチェーンネットワーク(SCN)を構築して、企業利益(利潤)を大きくできる可能性がある。
今回の共同研究では、シェアリング倉庫サービスを活用することで企業利益を最大化する分散型のサプライチェーンネットワーク(SCN)を構築し、それがどのような状況で有効に働くのかを数値計算で検証した。
従来の自社構築型の倉庫利用においては倉庫拠点を集約して物流費用を最小化することが主流だったが、研究の結果、特定の環境下ではシェアリング倉庫を活用して倉庫の数を増やし、分散型のサプライチェーンネットワーク(SCN)を構築することで企業利益が高まることが判明したとしている。
●利用したデータ
モデルを用いた数値計算にあたり、2023年1月18日時点のWareXの登録データを使用した。使用したのは、新宿を中心とする半径100km圏内に存在するシェアリング倉庫132件のデータ。また、工場は1個,小売店は日本の某小売メーカーが実際に利用している小売店より取得した36店舗を使用した。
●目的関数の説明
本研究では、企業が貨物を工場から仕入れ、小売店で市場に販売するまでに発生する年間の売上と費用の差分で得られる利潤関数を目的関数とし、混合整数非線形計画問題により倉庫数、倉庫配置等を求めた。
売上項目
・製品の売り上げ
費用項目
・倉庫の初期施設費用(施設費用)
・利用する倉庫の検索、契約手続き(機会費用)
・製品の購入(取引費用)
・倉庫での貨物の発注及び積み下ろし(発注費用)
・倉庫での在庫(在庫関連費用)
・倉庫から小売店への輸送(輸送費用)
・小売店での販売機会損失(販売機会損失費用)
・小売店での貨物の発注および積み下ろし(発注費用)
・小売店での在庫(在庫関連費用)
●ベースケース
(1)シェアリング倉庫でSCNを構築した場合
シェアリング倉庫を使ったシミュレーションを行った結果、使用する倉庫数が7の時に目的関数が最大値をとり、企業利益が最大となった。
また、使用される倉庫の特徴として、必ずしも保管費用が低い倉庫ではなく、小売店への配送時間が短くなる倉庫が選ばれることも判明した。
計算結果
(2)自社構築型の倉庫でSCNを構築した場合
比較のため、シェアリング倉庫の代わりに、某小売メーカーが実際に用いている倉庫群より自社構築型倉庫のデータを取得し、倉庫以外の入力値は変化させずに計算を行った。
その結果、自社構築型の倉庫でSCNを構築した際は倉庫を集約させた方が利潤は上昇するという結果になった。これは、物流費用を最小化するためには倉庫拠点を集約するのが有効という従来の研究結果を支持するもの。シェアリング倉庫と自社構築型倉庫で用いた入力値は、物流企業等へのインタビュー調査を踏まえ、それぞれ以下の通りに設定した。シェアリング倉庫は重量課金制であることから初期施設費用はゼロ、契約手続が非常に簡便であることから機会費用は自社構築型倉庫の1/5程度に設定した。
●研究結果のまとめ
今回の研究により、以下のような特定の環境下では、シェアリング倉庫を活用して倉庫の数を増やし、分散型のSCNを構築した方が企業利益を高めることが判明した。
・貨物の届け先が地理的に広がっているような場合
・生鮮食品等の荷受人がより早く受け取りたいと考える貨物の場合
・需要変動が大きくなる貨物特性を持つ場合
特に、需要変動が大きくなる貨物特性をもつ場合、既存の自社構築型倉庫と組み合わせてシェアリング倉庫サービスを活用することが有効と示唆されたとしている。
●論文へのリンク
今回の論文は、以下よりダウンロード可能。
・概要版:https://onl.tw/85fUEyf
・本稿:https://onl.tw/Vhibkdt
●本研究に関する無料セミナー
本研究の発表セミナーを以下の日程で開催する予定。
◎開催概要
日時:2023年4月25日(火)14:00~15:00
形式:オンライン・事前登録制
費用:無料
申し込みフォーム:https://warex.ai/seminar/wx-seminar-230425/
●川崎研究室について
川崎研究室(東京大学大学院工学系研究科システム創成学専攻)は2020年8月に立ち上がり、交通工学・交通科学・交通経済学・統計学の手法を用いて物流システム・サプライチェーンマネジメント・バリューチェーンなどに関する研究を行っている。特に、サプライチェーンネットワークシミュレーションモデルの構築、グローバルバリューチェーン、新技術導入による物流システムへの影響評価、衛星データ等を用いた貨物OD表作成、等をテーマの中心としている。
https://www.logistics.sys.t.u-tokyo.ac.jp/