(公社)全日本トラック協会(全ト協)は1月1日、坂本克己会長による令和7年年頭所感を発表した。
●全日本トラック協会 坂本克己会長の年頭所感
令和7年を迎えるにあたり、謹んで新年のご挨拶を申し上げます。
(1)2030年に向けた対応
昨年4月から我が業界を魅力ある職場とするため、ドライバーの時間外労働の上限を定める規制が適用され、いわゆる「物流の2024年問題」に直面し、さらに2030年に繋がる由々しき問題であります。これは、構造的な課題でもあり、継続的に対応していく必要があります。このため、国土交通省においては、「我が国の物流の革新に関する関係閣僚会議」で決定された「物流革新に向けた政策パッケージ」や「2030年度に向けた政府の中長期計画」等に基づき、①物流の効率化、②商慣行の見直し、③荷主・消費者の行動変容を三本柱とした抜本的・総合的な対策を講じてきたところであり、業界としても強力に推進していきます。
さらに、昨年3月には、燃料高騰分等も踏まえた運賃水準の引き上げ幅の提示や、荷待ち・荷役等の対価に係る標準的な水準の設定、下請けに発注する際の手数料の設定等の方針を盛り込んだ新たな標準的運賃が告示されました。引き続き、トラック運送事業者への周知徹底を図ります。
物流を支えるエッセンシャルワーカーであるドライバーの処遇改善や担い手確保は、「待ったなし」の極めて重要な課題です。このため、「物流革新元年」とした2024年に引き続き、本年がさらなる飛躍の年となるよう、全力で取り組みます。
(2)燃料高騰対策等の対応
経済活動への影響を小さくするための措置として、政府では令和4年1月から燃料油価格激変緩和対策事業を実施するとともに、物流事業者等に対する支援に活用できる「物価高騰対応重点支援地方創生臨時交付金」を措置しており、昨年12月に成立した令和6年度補正予算においても追加計上されました。引き続き、地方公共団体に対し、強力な支援要請の働きかけを行います。
燃料価格をはじめとする輸送コストの上昇分を適切に運賃に転嫁することが基本であり、トラック運送事業者が適正な運賃を収受できる環境を整備することが重要であると考えます。このため、燃料サーチャージ制度を盛り込んだ標準的運賃を、トラック運送事業者のみならず、荷主などへも周知・浸透を図るとともに、政府と連携し、独占禁止法や下請法の取締りの強化、下請中小企業振興法に基づく指導、昨年11月に体制が拡充されたトラック・物流Gメンによる情報収集や荷主・元請事業者等の悪質な行為の是正指導の強化等により、燃料価格高騰分を含む適正運賃収受に向けた取引環境の整備に向け、しっかりと取り組みを実施します。
(3)多重下請構造の是正と適正取引の推進
多重下請構造の是正に向けては、全日本トラック協会では令和6年3月に、「多重下請構造のあり方に関する提言」を取りまとめました。さらに業界の多重下請構造や荷主との適正取引等について審議するため、常任委員会の1つに「適正取引委員会」を設置し、同年11月に初会合を開きました。また、国交省においては令和6年8月に「トラック運送業における多重下請構造検討会」が立ち上がっており、利用運送事業者等の実態解明などを進めるとともに、実運送事業者が適正な運賃を収受できるよう、現在必要な対策が検討されているところです。全ト協としても、実運送事業者が適正運賃・料金を収受し、物流の現場で働くドライバーに全産業平均並みの賃金をお支払いできるようにするために、多重下請構造是正に向けた取り組みを強化していきます。
「経済財政運営と改革の基本方針2024」(令和6年6月21日閣議決定)において、「新たな商慣習として、サプライチェーン全体で適切な価格転嫁を定着させる『構造的な価格転嫁』を実現する」とされたことから、これを踏まえて公正取引委員会、中小企業庁に設置された「企業取引研究会」では、優越的地位の濫用規制の在り方について、下請法に関する改正を中心に検討が進められ、昨年12月に報告書が取りまとめられました。令和7年の通常国会で同報告書に基づき下請法改正が実現すれば、発注側と下請け側の価格交渉が義務化されるほか、これまで独占禁止法(物流特殊指定)で対応されてきた発荷主とトラック運送事業者との取引について、より機動的な対応がなされるよう下請法の適用対象になります。
(4)トラック・物流Gメンへの体制拡充
令和5年6月の貨物自動車運送事業法改正により「当分の間」延長された、違反原因行為を行う荷主等に対し、国土交通大臣が「働きかけ」や「要請」、「勧告・公表」を行う「荷主対策の深度化」については、その実効性を担保するため、令和5年7月に「トラックGメン」が発足しました。昨年4月に成立した改正物流効率化法では、我々からの要望を受けて、トラックGメンを補助し、荷主の違反原因行為を調査する役割が地方貨物自動車運送適正化事業実施機関に与えられ、各地方実施機関では「Gメン調査員」が選任されました。また、令和6年11月には、物流全体のさらなる適正化を図る観点から、「トラックGメン」を「トラック・物流Gメン」と改組し、トラック運送事業者に対して違反原因行為を行っている悪質な荷主について、倉庫業者からも情報収集を行うこととしたほか、地方運輸局の物流担当者29人と各都道府県トラック協会の「Gメン調査員」166人を追加し、総勢360人規模に増強されました。
前述の下請法の改正では、トラック運送事業を所管する国土交通大臣に、下請法に違反する行為に対する指導・助言の権限が付与されることが検討されているほか、トラック運送事業者が報復を恐れ、トラック・物流Gメンへの情報提供を躊躇することがないよう報復措置の禁止の申告先として、国土交通大臣を追加することが検討されており、これによってトラック・物流Gメンに情報提供した事業者についても保護の対象となります。こうした方向性を踏まえ、トラック・物流Gメンについては、公正取引委員会や中小企業庁が持つ豊富な知見を活かし、Gメン調査員と連携を図りつつ、より強い権限を持って荷主対策の実効性を高めていく必要があります。
(5)ドライバーの社会的評価の向上と人材確保対策
トラック輸送産業は、エッセンシャルワーカーであるトラックドライバーの皆様のたゆまぬ努力により、全国各地で地域の経済活動と人々の暮らしを支えており、公共交通機関としての重責を担うとともに、地方創生の旗頭として、高い評価を得てきました。一方で、トラック運送事業者に対する優越的な関係を背景に、荷主や一般消費者によるドライバーへの暴言や、契約にない過剰な要求、業務に対する不当な言いがかりや悪質なクレーム等が近年増加傾向にあります。
このようなカスタマーハラスメント(カスハラ)による精神的な被害を防ぎ、ドライバーの皆様方の安全と健康を守るためには、ドライバーの皆様を守るための対策だけではなく、ドライバーの皆様の社会的地位向上につながる対策を講じていかなければなりません。
全ト協ではこの対応を図るため、「ドライバーの社会的評価の向上に係る検討委員会」(委員長:滋賀県トラック協会 松田直樹会長)を設置しました。同委員会では、「トラック運送業界におけるカスハラの事例・実態把握」、「事業者がドライバーを守るために採るべき対策」、「ドライバーの社会的評価の向上に繋がる方策」、「荷主や消費者に対する適切な情報発信」――について検討、取りまとめを行い、カスハラ被害の根絶に向け、積極的に取り組みます。
トラック運送業界におけるドライバー不足は年々深刻化しており、労働力不足を解消するためには、業務の効率化や労働環境・条件の見直し、DX化・システム導入などの対策が求められてきます。
人材確保対策のひとつとして、政府は令和6年3月、特定技能の在留資格に係る制度の運用に関する基本方針等を変更し、特定技能の対象分野に「自動車運送業」を追加することを閣議決定し、特定技能の取得に必要となる特定技能1号評価試験を令和6年12月以降実施するとの発表が国交省からなされました。
自動車運送業分野において、生産性の向上や国内人材確保を行ってもなお深刻化する人手不足に対応するため、専門性や技能を生かした業務に即戦力として従事する外国人を受け入れることで、自動車運送業分野の存続・発展が期待されます。令和6年度から5年間の受け入れ人数として、自動車運送業分野で最大2万4,500人が見込まれており、ドライバー不足解消の一助となることが期待されています。
全ト協としましては、外国人ドライバーの円滑な受け入れに向けた対応を行います。また、倉庫や配送センター等の作業員についても確保が難しくなっている状況を踏まえ、これらの作業員についても、外国人特定技能制度への追加について、国交省に対して強力に要望を実施します。
(6)安全運行の徹底
トラック運送業界は、「安全で安心な輸送サービスを提供し続けること」が社会的使命であり、常に「安全」を最優先課題と位置付けながら事業を展開しています。
一方で、事業用トラックが第1当事者となる死亡事故件数は令和5年よりも増加傾向にあるほか、根絶すべき事業用トラックによる飲酒運転も依然として発生しています。また、大型車による車輪脱落事故も多く発生しております。全ト協では、「トラック事業における総合安全プラン2025」に基づき、令和7年度末までに、PDCAサイクルに沿って取り組みを進め、事業用トラックが関係する交通事故による死傷者数等の目標達成を図ります。会員事業者の皆様におかれましては、今一度基本に立ち返り、グリーンナンバーの自信と誇りを胸に安全運行の徹底に努め、安心・安全な輸送の確保をお願いいたします。
(7)道路整備と労働環境改善
トラック運送事業者が「国民生活と経済のライフライン」としての機能を果たし続けていくためには、利用者目線での計画的な道路整備の推進が必要です。
全ト協では、高速道路料金の引下げ、物流基盤の整備(高速道路ネットワークの整備・充実、休憩・休息施設や中継物流拠点の整備・拡充、暫定2車線区間の4車線化)等、道路整備の必要性を強く訴えてきました。特に高速道路料金については、大口・多頻度割引の拡充措置について、前述の令和6年度補正予算において、1年間延長されることになりました。引き続き、全国道路利用者会議と連携し、トラック運送事業者の生産性向上に資する道路整備や労働環境改善の実現等に向けて、政府・与党に対して全力で働きかけを行います。
(8)「事業許可更新制」の導入を目指して
我々トラック運送事業者の願いは、エッセンシャルワーカーとして物流の現場で日々奮闘しておられるドライバーの皆様方に、夢や希望、誇りを胸に、「我々が日本の産業を支えている」との熱い思いをもちながら、日々仕事をしていただくことに他なりません。しかしながら、これまでのようにトラック運送事業者同士が運賃・料金の安さで勝負していては、ドライバーの賃上げと労働環境改善には繋がらず、決してドライバーのためにはならないと考えています。今こそ我々トラック運送事業者は、「物流品質」で勝負しなければなりません。適正競争を推進することで、ドライバーの皆様の地位向上と労働条件の改善や事業経営の効率化が図られ、それが安定的な物流の確保に繋がり、国民経済の健全な発展に寄与することとなるのです。
全ト協では、業界内の適正競争推進による業界の健全な発展の実現に向けて、次期通常国会において、議員立法による貨物自動車運送事業法の改正とそれを担保する特別措置法(新法)の成立を目指すことを考えております。その具体的な内容としましては、事業許可の更新制等を追求していきたいと考えているところです。
会員事業者の皆様方がお互いに切磋琢磨し、業界全体が健全的に発展できるような環境にしていくために、全ト協では業界を取り巻く諸問題の解決に向けて、本年も全力で取り組みます。
会員事業者の皆様方のますますのご発展とご健勝、ならびにご多幸を心より祈念し、新年のご挨拶とさせていただきます。