ウエルシア薬局㈱とセンコー㈱、㈱日立製作所の3社は2月26日、卸売事業者の㈱PALTACとその調達先メーカー(※1)と共同で、ウエルシア薬局のサプライチェーン全体の配送効率化およびエネルギー消費削減に向けて情報連携基盤と物流センターでの入荷自動化設備を導入したと発表した。2024年12月~2025年1月の期間の実証実験を経て、2月より「ウエルシア西関東RDC」(神奈川県綾瀬市)で本格運用を開始したとしている。

ウエルシア西関東RDC

具体的には、物流・商流データ基盤(※2)で収集・標準化された各メーカーからの事前納品通知情報(確定入荷数や荷姿、納品車両等)を、メーカーへの発注から店舗への納品までのサプライチェーン全体にわたり、「配送情報シェアリングプラットフォーム」(※3)上で連携させるほか、同プラットフォームと物流センターを接続することで、トラックのバース(※4)滞留時間の削減や、検品作業の効率化を図る。さらに、物流センターの入荷業務に移動式協働ロボットを導入し、デパレタイズ・パレタイズ(※5)を自動化する。これらにより、配送業務の効率向上と、「ウエルシア西関東RDC」の納品車両において発生する1か月当たりのエネルギー消費量をシステム導入前比で約7%削減することを目指す。なお、ドラッグストアの物流センターで物流・商流データ基盤を活用するのは全国初の取り組みとしている。

今回の取り組みは、経済産業省・国土交通省の「令和6年度 新技術活用サプライチェーン全体輸送効率化・非化石エネルギー転換推進事業」(※6)に採択されている。今後、ウエルシア薬局はその枠組みを確立し、より多くのメーカーからの入荷に対応していくほか、ウエルシア薬局全社の拠点に対しても適用していく予定。さらには、他のドラッグストアや卸売事業者にも参画を呼びかけ、ドラッグストア業界全体への普及・拡大を目指す。

※1:参画メーカーおよび委託先企業:エステー㈱、大塚製薬㈱、牛乳石鹸共進社㈱、ユニリーバ・ジャパン・カスターマーマーケティング㈱、愛宕倉庫㈱、大塚倉庫㈱
※2:物流・商流データ基盤:内閣府の「戦略的イノベーション創造プログラム(SIP) スマート物流サービス」の「物流情報標準ガイドライン」に準拠して構築されているデータ基盤。なお、今回の取り組みでは(公財)流通経済研究所、㈱プラネットより技術協力を得ている。
※3:「Hitachi Digital Solution for Logistics/配送情報シェアリングプラットフォーム」に関する日立のWebサイト:
https://www.hitachi.co.jp/products/it/industry/solution/delivery_sharing/index.html?utm_source=new-2502_shar&utm_medium=web_bc&utm_campaign=nr
※4:バース:倉庫などでトラック等の車両が荷物を積み降ろしするために使う専用のスペース
※5:デパレタイズ・パレタイズ:パレットの積み下ろしや積み込み
※6:新技術活用サプライチェーン全体輸送効率化・非化石エネルギー転換推進事業:経済産業省、国土交通省による事業。新技術を活用してサプライチェーン全体の輸送効率を向上させ、同時に非化石エネルギーの導入を促進することを目的としている。特に輸送部門のエネルギー使用効率を改善し、温室効果ガス排出を削減するため、革新的な技術と非化石エネルギー源の活用を推進する。

●各社の役割
ウエルシア薬局:事業全体を統括し、同プラットフォームや移動式協働ロボット等の自動化設備を参画企業に提供する。

PALTAC:ウエルシア薬局からの発注を受け、各メーカーに対して出荷指示を行うほか、メーカーからの出荷予定(物流センターの入庫予定)を同プラットフォームに登録する。

センコー:輸送・3PL事業者として物流センターの運営と店舗への納品を担い、入荷業務では自動化設備等を使用した省人化、店舗配送ではドライバーに携帯端末を配備し、伝票の電子化に対応する。

日立:同プラットフォームの構築および自動化設備導入等、全体の技術提供を担う。日立はサプライチェーンをデータでつなぎ、現場のシステム・プロダクトと連携することで全体最適化を図り、「物流の2024年問題」の解決、フロントラインワーカーの負担軽減を目指している。同プラットフォームにはLumada(※7)ソリューション「Hitachi Digital Solution for Logistics/配送情報シェアリングプラットフォーム」を活用している。また、自動化設備導入には日立および㈱日立オートメーションのロボティクスSI技術を提供している。

※7:Lumada:顧客のデータから価値を創出し、デジタルイノベーションを加速するための、日立の先進的なデジタル技術を活用したソリューション・サービス・テクノロジーの総称。
https://www.hitachi.co.jp/products/it/lumada/index.html

●今回の取り組みの特長
①サプライチェーン全体をつなぐ配送情報連携プラットフォーム
従来、メーカーからの確定入荷数や荷姿、納品車両等の情報(事前納品通知情報)は物流センターと連携されておらず、入荷車両のバースでの滞留時間の増加等、車両の非効率な運用につながっている。また、物流センターでは手作業で入庫時の検品作業が行われている。同プラットフォームにより、メーカー出荷記録に基づく正確な事前納品通知情報を物流センターに連携可能となった。これにより、入荷車両のバース滞留時間が短縮でき、車両の運行効率が向上するほか、待機分の人件費等のコストやエネルギー消費の削減につながる。

また、メーカーからの事前納品通知情報を物流センターのWMS(※8)や移動式協働ロボット等の自動化設備に連携することにより、検品作業工数の削減、紙伝票の廃止、欠品や分納等の確認作業の排除による業務効率化を支援する。これらにより、物流センター全体の処理能力向上が期待できるほか、「物流・商流データ基盤」の活用により荷物情報が標準化され、複数荷主による共同運行や物流会社間の再委託を可能にする。

※8:WMS(Warehouse Management System):物流倉庫における入荷、在庫、出荷等の一連の業務を一元的に管理・効率化するシステム

②移動式協働ロボットによるデパレタイズ・パレタイズの自動化
これまで、物流センターの入荷業務におけるデパレタイズ・パレタイズは主にドライバーが担っており、これは荷主や物流施設の都合によるドライバーの拘束時間となり、長時間労働の一因となっていた。そこで、日立オートメーションの移動式協働ロボットを導入することにより、入荷作業の自動化を実現した。移動式協働ロボットは、メーカー各社の不定形の様々な品目の入荷業務に柔軟に対応するため、人間と同じように物体を3次元で認識し、AIを活用してマスターレスで制御できる日立オートメーションの高精度3Dビジョンを活用している。また、アンカーレスかつキャスタ付きで、作業者の手押しによる移動が容易なため、バースの割り当て変更に柔軟に対応できる。さらに、車両到着のピーク時には、人が加わって共に作業をする等、フレキシブルな対応が可能。

「物流2024年問題」の解決に貢献する今回の取り組みの全体像

近年、物流業界ではトラックドライバーの残業時間を制限する働き方改革の影響で、ドライバーや庫内作業員の確保が困難となる「物流の2024年問題」により、業務の効率化と省力化が急務となっている。一方、自社で完結しない、企業間の連携が必要な業務は、効率化が進みにくい傾向があるほか、欠品や分納等の増加で、入荷予定(メーカーからの出荷予定)の変動が大きくなり、入荷検品作業の効率が低下してる。脱炭素に向けても、国土交通省では、交通・物流(運輸部門)において、2030年度にCO2排出量を2013年度比で35%削減することを目標に掲げている。

そうした中、ウエルシア薬局はこれまでにも他のドラッグストアとの共同配送に取り組む(※9)等、物流の課題解決に向けて実績を積み重ねてきた。今回、卸・メーカーと共に、サプライチェーン全体をデータでつなぎ、サプライチェーン全体の配送効率向上とエネルギー消費削減に貢献する取り組みを開始した。

※9:2022年10月25日発表のウエルシアホールディングス㈱ニュースリリース「ウエルシアグループは物流課題解決とCO2排出量削減のため、青森県下北エリアにおいてツルハグループとの共同配送を開始」
https://www.welcia.co.jp/ja/news/csr20221025/main/0/link/WHDNewsRelease20221025.pdf