㈱Hacobuは8月23日、企業間で物流データを共有し、個社や業界の垣根を超えて物流の社会課題解決を目指す「物流ビッグデータラボ」を創設すると発表した。

第1回のラボには、アスクル㈱、キリンビバレッジ㈱、㈱スギ薬局、日本製紙㈱、YKK AP㈱が参画。企業間で物流ビッグデータを共有・分析し、共同輸配送を目指す。さらには、カーボンニュートラルの実現、ドライバー不足等の労働力問題の解決に寄与し、持続可能な物流インフラの構築を目指すとしている。

「物流の2024年問題」では、トラックドライバーの時間外労働への上限規制適用により、輸送力不足の影響で物流が停滞することが予想される状況下では、「共同輸配送」が有効な解決策として注目を集めている。

共同輸配送とは、従来個別に行われていた複数企業の配送を、トラックやコンテナ等を共同利用してまとめて行う手法。同方法により、慢性的な労働力不足の緩和、CO2排出量の削減といった複数の課題解決が期待されている。

しかし、共同輸配送を実現していく上では課題があると同社は指摘する。多くの場合、まずは一度の固定的なデータ分析に基づいて実施されるケースが多いが、運ぶ貨物の量や頻度は季節等で変動するため、固定的な座組では変化に対応できないのが実情と指摘している。

Hacobuは、「データドリブン・ロジスティクスが社会課題を解決する」を信念に掲げ、個社の枠を越えた物流ビッグデータの分析・活用基盤となる「物流情報プラットフォーム」の構築を推進してきた。企業間物流を最適化するクラウド物流管理ソリューションMOVO(ムーボ)と物流DXコンサルティングHacobu Strategy(ハコブ・ストラテジー)を展開している。

「物流情報プラットフォーム」

2024年6月には、MOVOの利用事業所数(※1)は2万か所を突破し、累計登録ドライバー(※2)は、日本のトラックドライバーの約3分の2に相当する60万名を突破した。これによりMOVOに蓄積される「入出荷情報」「車両の動態情報」「配送案件情報」等を含む月間トランザクションデータ量(※3)は170万を超え、「物流ビッグデータ」の基盤が整ったとしている。

「物流ビッグデータラボ」により、すでに多くのユーザーが日々利用しているMOVOに蓄積されたトランザクションデータを活用することが可能になる。これにより、分析のために各社がデータを持ち寄るというステップを省き、共同輸配送の実現に向けて企業間でよりスピーディで効率的な議論や検証を実現する。

●物流ビッグデータラボの概要
物流ビッグデータラボは、企業間で物流データを共有し、個社や業界の垣根を超えて物流の社会課題解決および共同輸配送の実現を目指す。主な目的は以下の通り。

①企業間での物流ビッグデータの共有と分析による共同輸配送の実現
②物流効率化に向けた「データドリブン・ロジスティクス」の普及
③モノが運べない事態になることを回避し、社会貢献につなげる

同社は物流の社会課題を解決するには、様々なステークホルダーでの議論や化学反応が必要不可欠だと指摘。議論を前に進め、イノベーションを創出する鍵は「データ」にあると考えている。同一の仕組み上で生成された標準データを企業間で直視しながら、建設的な解決策を導き出す「データドリブン・ロジスティクス」を同ラボで推進する。

物流ビッグデータの活用例として、MOVOシリーズの1つであるトラック予約受付サービス「MOVO Berth」の入荷データ分析から得られた結果がある。その分析により、ある1日のMOVO Berthで取得できる全運行のうち、41.3%で共同輸配送の実現可能性があることが明らかになったとしている。

●プレスリリース「MOVO(ムーボ)の物流ビッグデータから、1日の運行のうち41.3%で共同配送の実現可能性があることが明らかに」
https://hacobu.jp/news/6988/

なお、同ラボの目的は、「政府が掲げる2030年度に向けた政府の中長期計画」内の「物流標準化やデータ連携の促進等フィジカルインターネット・ロードマップを踏まえた取組を推進し、積載率向上に向けた共同輸配送や帰り荷確保を促進」する施策にも沿った内容としている(※4)。

●データガバナンスについて
同社は物流ビッグデータの活用については、主に2つの懸念が存在すると指摘する。

①物流ビッグデータ活用によって自社データの秘匿性が損なわれるのではないか
②物流ビッグデータをシステムに蓄積する会社が不当に利益を得るのではないか

Hacobuは、これらの懸念を払拭し、データをもとに建設的な解決策を考える「データドリブン・ロジスティクス」を実現するため、2021年4月に外部専門家を含めた物流ビッグデータ・ガバナンス委員会を組成した。同委員会では、第三者の視点や意見を取り入れ、物流ビッグデータ活用に関するガイドラインを策定。運用体制の整備に取り組んでいる。

現在は委員会での議論を踏襲し、技術的・組織的な面でのセキュリティ対策に努めるほか、経営会議や情報セキュリティ委員会において施策の立案、モニタリングおよび検証を進めている。また、それらの取り組みについては、社外取締役および社外監査役による監督・監査を受ける体制を構築している。

●物流ビッグデータ・ガバナンスの取り組み
https://hacobu.jp/datagovernance/

●安心のセキュリティ
https://hacobu.jp/security/

●今後の展望
同社の物流ビッグデータラボは、短期的な成果と長期的なビジョンを持って、物流の変革を目指している。初年度は、物流ビッグデータを基にした共同輸配送の実例創出に取り組んでいくほか、より多くのルートで共同輸配送を実現し、社会的インパクトを最大化するため、データ拡充と継続性を両立する仕組みを議論・検証していく。

中長期的には、参画企業の拡大と多様な業界からの参加促進を図るほか、自動運転時代を見据えたデータ活用基盤の構築を進める。

※1:利用事業所数とは、MOVO 導入拠点に加えて、MOVO を利用する事業所のIDを合計した数字
※2:累計登録ドライバー数。利用者が「MOVO Berth」を利用する際に登録するドライバー電話番号の累計ID数
※3:MOVOシリーズの各プロダクト利用に伴うユーザーのトランザクションデータの合計値
※4:出展『政府が掲げる2030年度に向けた政府の中長期計画』
https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/buturyu_kakushin/pdf/20240216.pdf