キナクシス・ジャパン㈱は5月22日、クアルコムがコンカレント(同時並列)なS&OPプロセスを活用して半導体チップ不足を解消した方法を発表した。

同内容は、Kinaxisのインダストリー&ソリューションマーケティング担当者のSusan Gosnell氏とクアルコムのデジタルバリュークリエーション担当VP兼S&OPトランスフォーメーションプロジェクトスポンサーであるArpad Hevizi氏、ジェンパクトのサプライチェーンサービスラインSVPであるMichael Ciatto氏、同サプライチェーンサービスライン担当VPのChris Stevens氏が、コンカレント(同時並列)なS&OPプロセスによって、クアルコムが半導体不足を解消した方法について議論したPodcastを翻訳・再編集したもの。

内容は以下の通り。

●近年の半導体産業の変化と成長
近年、半導体産業は急速に変化している。マッキンゼー・アンド・カンパニーによると、2030年までに1兆ドル規模の産業になると言われている。その成長には、不安定さがつきもので、需要と供給には継続的な変動がある。

需要と供給の完璧なバランスを実現しようとする企業は、需要と供給の一致が一時的なものであるという、業界の周期的な性質に対応しなければならないほか、ブルウィップ効果の影響もあり、企業が需要の変化に気づいた時には、供給の調整が間に合わず対応することができないとしている。

目に見えない需要の変化を予測することは不可能である一方、企業にとっての最善策は、過去の需要パターンとリアルタイムの需要予測を組み合わせて需要の変動に先手を打ち、サプライチェーンの弱点を特定して注力エリアを理解し、できるだけシームレスに意思決定を行い、ある市況から次の市況へと柔軟にシフトすることでえある。

継続的な成長産業において、ワイヤレスイノベーションのリーダーであり、最大級の半導体エンジニアリング特許ポートフォリオを持つクアルコムは、過去数年間、需要の大きな変動に見舞われた。そのため、需要パターンと供給能力の変化を把握し、察知すると同時に、営業、事業部計画、サプライチェーン、長期計画、戦略立案チーム、財務等、社内の複数の部門を調整することが重要になった。

これらの異なる部門を結びつけるためには、関係者全員がより良い意思決定を行うことが出来る、整合性のあるプロセスと単一の事実を提供するプラットフォームが必要不可欠だった。混乱や 変化を経験する業界は、半導体業界だけではない。地政学的な懸念やESG(環境、社会、ガバナンス)の取り組みによって、あらゆる業界の企業が、変動性を受け入れ、弾力性を高め、あらゆるチャンスをつかむことができるよう、変化に素早く対応できる敏捷性を持つ必要性が高まっている。

●クアルコムのアプローチ:コンカレント(同時並列)なS&OPプロセス
クアルコムは、コンカレント(同時並列)なS&OPプロセスを活用して、半導体チップ不足に対処することができた。サイロ化の解消、データの統合、計画サイクルの短縮等、エンド・ツー・エンドのネットワークのバランスを瞬時に、かつ継続的にとることに注力した結果、コンカレントプランニングを中心とした組織の連携が実現した。

これは、発生するシグナルを継続的に確認し、それが何を意味するのかを理解することで、リスクを特定し、最適な判断を下すことが出来る組織になったことを意味している。その結果、クアルコムは、顧客の利益になるようなサプライチェーンの決定を下し、同時に会社のイノベーション目標の達成に向けて動くことができるようになったとしている。

●健全なプロセスの重要性
サプライチェーンの再構築にはプロセスとテクノロジーの連携が重要で、それが成功と失敗の分かれ目となり得る。

クアルコムは、事業の運営と改革のバランスを取る必要があったため、何度も調整を繰り返し、経営陣の支持を得ながら進められた。プロセスの各段階において、社内のそれぞれの部門が享受できる価値を生み出すことが重要だった。こうすることで、従来のプランニング手法からコンカレントなS&OPプロセスに移行する際に、各部門の協力を得ることができた。

今回の改革の中心はデータだった。プロセス全体でデータの整合性を一貫して測定し、それをすべての部門で可視化することで、クアルコムは計画プロセス、分析、意思決定を把握することができるようになったとしている。

サプライチェーン改革の一環として、目標とするオペレーティングモデルを定義するには、次の3つの重要な点を考慮する必要がある。

S&OEなしでS&OPを設計しないこと。クアルコムの場合、半導体やウェハーのアロケーション等、特定の分野では、エクセルのようなアナログな計画ツールでは管理できない分析的サポートが必要。分析力があり、ビジネスに精通した人材で構成される統合ビジネスプランニングチームを作り、データに基づいて部門横断的な企業の意思決定を行う権限を与える。現在の市場の状況に合わせて設計されたオペレーティングモデルを構築することにこだわらない。

●サプライチェーンの次なる展開
サプライチェーンは、かつてないほど注目を集めている。今や収益とコストのコントロールに注力することが経営幹部が関心を寄せる経営会議のトピックとなっている。企業は、従来の純粋な運用コスト重視からサービスコスト重視にシフトする中で、様々な市場のサービスレベル目標をサポートするための対応力、弾力性、コストのバランスを取っている。

そこで、アジリティ(敏捷性)とレジリエンス(弾力性)が、積極的なコスト管理を進める上で重要な役割を果たす。アジリティのあるサプライチェーンは、他の方法では得ることが出来なかったかもしれない収益を守り、さらに企業の方針転換や収益確保を実現するほか、レジリエンスがあれば、サプライチェーンにおける最大のコストの1つである在庫をより効果的に管理することができるため、混乱によって失われる可能性のあった収益を守ることができるほか、収益の拡大という点では、対応力のあるサプライチェーンはより良い顧客体験を提供し、ひいては収益を生み出す機会を増やすことができる。

コンカレント(同時並列)なサプライチェーンの導入によってビジネスが成長すると同時に、人も成長する。サプライチェーンへの新たな注目は、サプライチェーンの専門家にとって様々な面で活躍する機会となる。長い間、彼らは舞台裏のヒーローだったが、コンカレントプランニング(同時並列計画)の技術によって、いまや彼らはビジネスを成長させ、競争優位性を獲得する機会をつかむことができるようになり、かけがえのない人材となったとしている。