(一社)日本物流団体連合会(物流連)は9月4日、尚友会館(東京都千代田区)で令和7年度第1回国際業務委員会(委員長:日本郵船㈱常務執行役員 伴野拓司氏)を開催した。同委員会は、物流事業の海外進出に関する課題について官民連携して検討する会合で、会員企業や国土交通省から30名が参加した(うち10名がWEB参加)。

委員会は2部構成で開催され、第1部は国際機関日本アセアンセンター業務統括部長代理の石田靖氏から、「ASEANの物流事情」と題し講演が行われた。講演会にはWEB聴講者を含め67名が参加した。

日本アセアンセンターの石田靖氏が講演

講演では、データや調査資料を基に、

①ASEAN物流の現状と国際比較
人口約6.7億人、GDPは約3.8兆ドルで世界第5位の規模である点、2025年の物流市場規模は約2,882億ドル、2030年には3,900億ドルへ拡大の見込み。物流パフォーマンスでシンガポールが世界上位、他国はインフラや制度の差が大きい。

②強み
地政学的要衡(マラッカ海峡)、人口ボーナス。China Plus One戦略により製造・供給拠点がASEANに移行。FTA/RCEP等の制度的優位性。

③課題
インフラ格差(道路舗装率・港湾能力の違い)。通関・制度的障壁(国ごとに規制差)。運賃・賃金上昇によるコスト増。

④新しい潮流
デジタル化/ASEAN Single Window(通関電子化)、IoTによるサプライチェーン可視化。グリーン物流/港湾低炭素化、EVトラック・水素燃料車導入。コールドチェーン/食品・医薬品需要拡大、ワクチン輸送経験が強み。

⑤Eコマース物流とラストマイル
EC市場は急成長(インドネシア650億ドル、ベトナム220億ドル等)。配達所要日数はシンガポールは約1.3日と短いが、フィリピン等は地域差あり。ラストマイルコストが物流費用の最大部分(41~53%)、スマートロッカーやドローン等で効率化が進行。

⑥今後の展望と日本企業への示唆
ASEAN Connectivity Strategic Plan(2026-2035)に基づき、域内輸送ネットワーク強化、デジタル化、グリーン物流推進。日本の役割として、道路・港湾整備(フィリピン、インドネシア、ベトナムで事例)、通関システム導入、コールドチェーン・EV物流支援。ビジネス機会:成長市場そのものが投資対象。

EC・冷蔵物流・倉庫自動化で日本企業の強み発揮可能。港湾運営・グリーン物流等の共同投資の余地など詳細な説明があり、講演会は終了した。

続いて、国土交通省 物流・自動車局 国際物流室の牧野室長から「物流サービス分野における国際標準化に関する議論について」と題し、ISO(国際標準化機構)の概要、日本主導のコールドチェーン物流サービスの国際規格化、進行中の中国主導の国際標準化議論(TC344:Innovative Logistics)について説明があり、TC344におけるSC1(韓国主導/Retail logistics)およびSC2(中国主導/Courier services)への影響について、各物流事業者への参画や国際標準化に対する人材育成について協力を依頼された。

第2部の委員会では、冒頭、伴野委員長よりトランプ関税の話に日本政府の動きを交え挨拶があった。

委員会で挨拶する伴野委員長

次に、国土交通省 物流・自動車局 国際物流室の牧野室長から「最近の国土交通省における国際物流政策の取組みについて」説明があった。国土交通省では引き続き、コールドチェーン物流サービスの普及に関する取り組みを進めており、7月には国際・食品物流EXPOで講演を実施、こうした機会を利用して認証取得促進に努めていきたいと話した。ISO31512普及に向けた調査については日ASEAN交通連携の枠組みのもとで、これまでASEAN地域へのコールドチェーンの普及に努めてきたが、今後はASEAN地域のみならず広くグローバルサウスに着目し、どこにニーズがあるのかなど調査を進めたいと考えていると発言した。また、日ASEAN物流専門家会合及びワークショップについては来年1月もしくは2月にタイ・バンコクで開催したいと考えており、その際は物流事業者も参加して、ワークショップ会場の後方に簡易ブースの設置を検討している旨の説明があった。続いて、中央回廊に関するビジネスツアーをカザフスタン・ジョージアあたりで検討中。積極的な参加を期待していると発言した。最後に国際物流に関する官民コンソーシアムの立ち上げについては、体制も含め検討中であり、初期段階ではスモールスタートとなるが、徐々に機能を拡充していく計画であると説明した。

最近の取り組みを発表する国土交通省の牧野武人氏

最後に、事務局から令和7年度上期活動報告とインド海外物流実態調査結果(速報)を報告した後、下期活動計画について審議が行われ、原案通り承認された。