㈱IHI/野村不動産㈱は4月18日、両社が共同で開発を進めてきた「Landport 横浜杉田」が竣工し、満床稼働したと発表した。

同施設は、ポスト2024年問題(※1)における新たな対応策として「オープン・シェア型」物流施設というコンセプトを掲げている。「オープン・シェア型」物流施設とは、屋上菜園や施設内の広場・樹木等、施設が有する様々なリソースを地域イベントの開催場所や防災拠点として広く共有することで、施設や地域の関係者が繋がり合い、地域の雇用や防災レジリエンス向上等の価値を創出できる施設としている。

物流の自動化や人手不足への対応策として、主に「自動倉庫のビルトインによる自動化・省人化への環境整備」や「地域コミュニティ活動の促進による雇用機会の創出」等の特徴があり、ハード面・ソフト面の両方からの解決策を提案している。

また、同日、地域関係者および地域住民の方々を交えた竣工オープニングイベントを開催した。同施設内の地域開放型の広場「LandHOOP(ランドフープ)」では地域連携の証として、杉田地域の歴史的樹木である「杉田梅」の植樹を行った。今後も杉田梅に因んだイベント、地域住民を対象とした防災イベントを開催し、同施設を通じた人々のつながりや関係の輪の構築、さらなる交流促進に貢献していくとしている。

施設の外観
竣工オープニングイベントで行われた植樹の様子

※1:働き方改革法案によりドライバーの労働時間に上限が課されることで生じる問題の総称である「2024年問題」と同様の課題。

●地域と連携した「オープン・シェア型」物流施設としての取り組み
IHIと野村不動産は、「オープン・シェア型」物流施設というキーワードを掲げて、「地域に寄り添い、人々や企業がつながり合う地域共創型の物流施設」の運営を推進する。

この開発コンセプトの背景には、物流業界の「ポスト2024年問題」への対応がある。これまでの物流施設の自動化や省人化等の対応に加えて、2026年4月よりCLO(物流統括管理者)の設置(※2)が義務付けられ、荷主企業自らが雇用対策・防災対策等を考慮した物流施設選択の必要性が高まっている。「オープン・シェア型」物流施設を有する同施設では、自動機器レンタルサービスや地域共創の取り組みを通じて、ハード面だけでなく、雇用創出といったソフト面からも荷主企業の課題を解決する。以下の地域連携の取り組みにより、今後もIHIと野村不動産は、地域の歴史・文化を尊重しながら、人々と共に街の発展に貢献していける施設を展開していくとしている。

※2:「流通業務の総合化及び効率化の促進に関する法律」の改正法によって、特定荷主企業に対して選任が定められた役職であり、事業運営上の重要な決定に参画する管理的地位にある者(役員等の経営幹部)として、自社における物資の流通全体を統括管理することが求められる。

①横浜市金沢区と防災協定の締結および防災イベントの開催
IHIと野村不動産は、2024年12月に金沢区と「津波発生時における施設等の提供協力等に関する協定書」を締結した。同施設が収容人数1,000人想定の津波避難施設に登録されていることの認知拡大、地域住民を巻き込んだ防災イベントの定期開催等により、地域の産業発展・防災・環境保全等の社会インフラ機能の向上、雇用機会の醸成等の連携協力を行う予定としている。

竣工オープニングイベントの様子

②杉田地域の歴史樹木「杉田梅」の文化発信や保護活動の実施
杉田梅とは、日本古来の貴重な在来種で、横浜が誇る歴史的樹木。江戸時代(元禄年間)には約3万6千本におよぶ梅林が生育していたが、塩害や古株の老衰、戦後の宅地化等により梅は減少し、現在では同施設近隣の妙法寺をはじめ、地域内で僅かに残る程度。そこで地元企業団体等の有志が集まり、「幻の杉田梅林賑い復興“梅のまち杉田”実行委員会」が結成され、2022年より「杉田梅まつり(※3)」という名称で妙法寺にて杉田梅の歴史文化の発信や樹木の保護活動が行われるようになった。IHIと野村不動産も2024年より同活動に参画しており、今後も地域と連携したイベントを実施し、歴史の継承・伝承を通じて、杉田梅の復興・保護活動に貢献していくとしている。

同日開催された竣工オープニングイベントにおいては、「杉田梅」普及の第一人者であり、実行委員会副会長の市原由貴子氏から、同施設の竣工に際してコメントをいただいた。

●合同会社横浜旬・菜・果 代表の市原由貴子氏のコメント
この度は「Landport横浜杉田」のオープンおめでとうございます。オープン・シェア型の物流倉庫というコンセプトを掲げ、地域との連携を図る努力、準備をされているのを拝見していて、スタートするのを楽しみにしておりました。横浜杉田はかつて梅で栄えた街でした。その光景は歌川広重が描いております。大火、近年の宅地化等で梅の木は消えてしまいましたが、その歴史、文化、名前は残っています。子供達が「梅のまち杉田」を誇れるよう共に活動していただけましたら幸いです。

※3:杉田梅まつり2025
https://shunsaika.yokohama/lp/umematsuri

③マルチテナント型賃貸物流施設(※4)で国内初(※5)、屋上にスマートコミュニティ農園設置(2025年6月完成予定)
同施設の屋上に、プランティオ㈱が運営協力するスマートコミュニティ農園「“Vegestic Farm” Yokohama Sugita by grow」を設置予定。「スマートコミュニティ農園」とは、AIやIoT、ICTを活用して土壌水分量・温度の分析、アプリを活用した水やりタイミングの通知等により、都市部で野菜を栽培する農園。

これまではビルの屋上、マンションや商業施設等に設置されてきたが、今回、同施設において物流施設向けに初めて導入される。地域の活性化や食農の学びの場づくりや企業間交流、憩いの場としての利用、ワーカー参加型のワークショップ等を通じて、ワーカーのワークライフバランス向上に貢献する。将来的には地域住民を迎え入れ、食農体験を通じた交流の場を目指すとしている。

※4:複数の企業が同じ敷地内に個別のスペースを持ちながら、物流インフラやサービスを共有する賃貸型の物流倉庫。

※5:プランティオ調べ
https://plantio.co.jp/

“Vegestic Farm” Yokohama Sugita by growの完成イメージ

●荷役、保管、輸配送など物流業務の効率化・省人化への貢献
同施設では、総合物流機器メーカーの㈱IHI物流産業システム(ILM)をはじめとしたIHIグループの技術力と、野村不動産が培ってきた「カテゴリーマルチ」型物流施設(※6)の開発・施設運営によって得られたノウハウおよび最適な物流オペレーションの検証を行う企業間共創プログラム「Techrum(テクラム)」の取り組みの融合により、労働力不足や物流コストの増大を含むサプライチェーン機能の停滞等への課題解決を図る。

※6:利用する顧客の業種(=カテゴリ)を特定し、オペレーション効率を最大化する物流施設と自動化を見据えた施設設計を実現した施設。

◎「Landport横浜杉田」における物流業務効率化に向けたその他の取り組み
・自動倉庫のビルトインおよび自動化機器レンタルサービスの提供により、費用削減や賃借面積合理化に貢献。

・将来的な自動化機械等の導入に対応可能な電力容量として、約4,000kVAまでの特別高圧受電を採用。

◎Techrum(テクラム)について
ロボティクスや ICT、搬送機器など物流関連技術を有する企業各社と連携し、野村不動産が核となって組成する企業間共創プログラムであり、様々な荷主・物流企業固有の課題解決へ向けた総合的なソリューション開発を行っている。協業パートナー企業は2025年3月時点で115社であり、ILMも参画している。
https://www.nomura-landport.com/techrum/

●横浜港至近、配送と雇用に最適な立地
同施設は首都高速湾岸線・杉田ICより約680m、横浜横須賀道路・港南台ICから約3.4kmと、利便性の高い場所に位置している。都心まで約30km圏内に位置し、湾岸~都心ルートのみならず、第三京浜道路や保土ヶ谷バイパス等を使っての輸送等、神奈川県内陸方面や都心方面の幅広い配送に適した立地条件を備えている。

「Landport横浜杉田」の位置

●施設概要
施設名:Landport横浜杉田
所在地:神奈川県横浜市金沢区昭和町3174
交通アクセス:首都高速湾岸線「杉田」出入口680m、JR根岸線新杉田駅徒歩16分、横浜シーサイドライン南部市場駅徒歩4分
敷地面積:7万1,034.94㎡(2万1,488.06坪)
延床面積:16万3,409.47㎡(4万9,431.36坪)
構造・規模:地上4階建・柱RC梁S造・免震構造 ダブルランプ型