住友商事㈱とセイノーホールディングス㈱(セイノーHD)は2月21日、千葉県内で2月20日にAdvanced Air Mobility(AAM)の社会実装を見据えた通常時および緊急時の物流実証実験をヘリコプターを活用して実施したと発表した。

今回の実証では物流の効率化や人手不足対策に加えて、災害時の緊急輸送手段としての可能性を検証。AAM物流の社会実装に向けた技術的・事業的な課題を明確にし、実用化に向けた取り組みを進める。

日本の物流業界は、2024年問題によるドライバー不足や輸送コストの増加といった課題に直面しており、特に過疎地域や長距離輸送の効率化が求められているほか、地震・豪雨等の災害発生時には迅速な物資輸送の確保が重要である。

住友商事とセイノーHDは、そうした課題に対応するため、eVTOL/空飛ぶクルマや大型ドローン等のAAMによる輸送とトラック輸送を組み合わせた物流事業の実現に向けて取り組みを進めてきた。

セイノーHD傘下の事業会社である西濃運輸㈱の配送データを用いたシミュレーションでは、千葉県南エリアドライバー5人分の人件費を含む年間約1億円のコストメリットや効率化が確認された。今回の実証では、机上のシミュレーションでは把握できない実運用時の課題を検証するため、ヘリコプター(仮想AAM)による通常時の貨物輸送、および緊急時の支援物資輸送の実証実験を実施した。

●AAM物流シミュレーション(AAM導入前後の配送ルート比較)

実際の物流データを基にシミュレーションしたもの(緑点は配送地、黄緑線は現状のトラック配送ルート)
AAM導入時のシミュレーション(紫線がAAM輸送ルート)。黄緑線が減少し、トラック配送負担が軽減。

今回の事業構想では、AAM輸送とファースト/ラストワンマイルのトラック輸送を組み合わせた新たな物流網を構築する。AAMによって長距離トラック輸送の非効率部分を代替し、輸送時間短縮・人員負担軽減を実現。さらに、AAMの離発着場を物流ハブとして活用し、平時の配送効率向上と災害時の緊急物資輸送拠点としての機能を担うフェーズフリーモデル。将来的には、量子技術を活用した多数AAMのリアルタイム制御(※1)、荷積み作業の自動化(※2)を導入し、より効率的で持続可能な物流網の構築を目指す。

AAMを活用した物流事業構想

●実証概要
実施日:2025年2月20日
実施場所:千葉県 木更津市、袖ヶ浦市、鴨川市、勝浦市
実証内容:ヘリコプターの活用によるAAM物流事業の運用検証
・荷物の積み替え、輸送フローの確立
・災害時の代替輸送手段としての有効性検証
・運航コスト、輸送効率、荷物への影響などのデータ収集
参加企業:
・住友商事(プロジェクト全体統括、事業性検証)
・セイノーHD(物流オペレーション、ファーストワンマイル輸送)
・朝日航洋(ヘリコプター輸送)
・安房運輸(ラストワンマイル輸送)
・Mobilco(ラストワンマイル輸送)
協力:
・袖ヶ浦フォレスト・レースウェイ(発地ポート、説明会会場提供)
・鴨川市(災害時想定物資輸送協力)
・日本航空学園(鴨川ルート着地ポート)
・REWILD GREEN FIELD CAMP(勝浦ルート着地ポート)

実証概要

今回の実証では、西濃運輸木更津支店から勝浦・鴨川への物資輸送ルートを設定し、トラックからヘリコプター(仮想AAM)への積み替え、飛行輸送、荷卸し・配送までの流れを検証した。通常時を想定した勝浦ルートでは商店街の商品(1パレット/200kg相当)を輸送し、トラック輸送が非効率な地域におけるAAM代替輸送の可能性を検証した。

緊急事を想定した鴨川ルートでは食料・飲料水・簡易トイレ・粉ミルク・おむつなど緊急支援物資を輸送し、災害時の緊急輸送手段としての活用を検証した。また、自治体や協力企業の関係者が輸送オペレーションを見学し、AAM物流導入後の具体的な運用イメージを共有した。

●実証実験当日の様子

各社による本事業構想の説明
ローラを使い荷物を積み込む様子
左から、袖ヶ浦フォレスト・レースウェイの中村オーナー、セイノーHDの河合執行役員、住友商事の多々良航空SBU長
荷物を載せて飛び立つヘリコプター
勝浦商店街での商品受け渡しの様子
緊急支援物資を受け取った鴨川市長、副市長

※1:多数のエアモビリティをリアルタイム制御する量子技術実証を開始
https://www.sumitomocorp.com/ja/jp/news/release/2021/group/14850

※2:米国AIロボットのユニコーン企業Dexterityとの合弁会社を設立
https://www.sumitomocorp.com/ja/jp/news/topics/2024/group/20240719

※3:Advanced Air Mobility を活用した物流事業創造への挑戦
https://www.sumitomocorp.com/ja/jp/news/topics/2023/group/20230120

※4:住友商事とJAL、eVTOL運航事業会社を共同で設立
https://www.sumitomocorp.com/ja/jp/news/topics/2024/group/20240603