武田薬品工業㈱と三菱倉庫㈱は5月31日、三菱倉庫が開発したブロックチェーンを用いたデータプラットフォームを活用し、5月より一部製品の輸送・流通において工場出荷から医薬品卸倉庫への納品までの、製品の温度・位置情報を可視化する取り組みを開始したと発表した。

近年、医薬品流通は流通過程において高い水準の品質保証を維持し、劣化、破壊等がないよう業務の画一性を推進することが求められており、2018年12月に発出された、医薬品適正流通(GDP:Good Distribution Practice)ガイドラインでもその方法が定められている。

三菱倉庫は2015年から、PIC/S(※1)GDPガイドラインに準拠するため、医薬品保冷配送サービス「DP-Cool」を構築し展開している。その後、DP-Coolのノウハウをもとに、室温品を対象としたGDP対応の輸送サービスを開始し、武田薬品をはじめ多くの製薬企業がこれらのサービスを利用している。

そこで両社はサプライチェーン上の温度ならびに位置情報を可視化し、流通過程で連携する様々な事業者間で共有することによって、より安心で安全な医薬品流通体制を築くことを目指し、その基盤となる仕組みの構想、策定を進めてきた。その結果、製薬企業の製造工場から医薬品卸倉庫までの流通を担う三菱倉庫が、データプラットフォーム「ML Chain」を開発し、2022年1月より、武田薬品の物流センターから医薬品卸倉庫までの国内の流通経路で、全製品において運用を開始した。同プラットフォームはIBM社のブロックチェーン技術(※2)を採用しており、データの完全性と安全性を保持しながら、医薬品流通過程の各種情報を可視化し、輸送に関わる事業者間でリアルタイムに共有することが可能となる。

さらに本年5月から、一部製品は製品の製造工場である武田薬品の光工場から武田薬品の物流センター、医薬品卸倉庫への配送において、運用を開始した。両社による先進的な取り組みは、今後の日本の医薬品流通でメーカーや物流業者、医薬品卸、医療機関など様々な事業体が垣根を越えて協働する第一歩になるものと期待されており、将来的にはオープンなプラットフォームとして流通品質管理向上のみならず、偽造医薬品対策や在庫レベルの適正化、安定的供給の維持等、業界全体として医薬品流通の高度化に貢献することが見込まれている。

武田薬品のグローバル マニュファクチャリング&サプライ ジャパン ヘッドのグレッグ・ティモンズ氏は「本プラットフォームは、患者さんに確かな品質をお届けするという共通の使命の下に実現しました。『サプライチェーン全体の見える化』は、より広い協働関係を築くことを可能にし、製薬業界全体に貢献していくものと考えます」とコメントした。

また、三菱倉庫常務取締役の若林仁氏は「GDPガイドラインの発出以降、サプライチェーン上での品質およびセキュリティ管理強化に対するニーズが高まっています。三菱倉庫は本プラットフォームを活用したサプライチェーンの可視化をご提供し、武田薬品をはじめ多くの事業者様とともに医薬品の安定供給に努めて参ります」と述べた。

※1:医薬品査察協定・医薬品査察協同スキーム。各国の医薬品の「製造・品質管理基準(GMP)」と「基準への適合性に関する製造事業者の調査方法」について、国際間での整合性を図る団体(欧州中心に薬事行政当局がボランタリーに参加)

※2:ブロックチェーン技術は、すべての履歴を連続的に記録する「不可逆」なデータベース技術で、関係者全員がアクセス可能でありながらデータ改ざんが不可であるため、その製品等が「いつ、どこで、誰の手を渡って来たのか」といったことを、すべての関係者が追跡可能であり、トレーサビリティを実現する。また、分散台帳の特性上、複数の事業者間で台帳を保持し合うことで、一部の障害が全体に影響を及ぼすことがなく、データの安全性が確保される。